京都徒然日記

京都の大学生。本と映画と星空と…

【読書感想】夏川草介「神様のカルテ0」ー優しさというのはね、想像力のことですよ。

久しぶりに読み返して、素敵な言葉を発見したので書き留めておこうと思います。

私が神様のカルテシリーズにはまったのは高校生の時なので、月日が過ぎるのは早いものです。以下あらすじと感想。

 

あらすじなど

神様のカルテ」シリーズ4作目。主人公・栗原一止の大学時代〜研修医時代を描く。また前作までのシリーズ3巻ではサブメンバーとしてしか語られていない辰也と千夏の過去や医学を志すものの現実、ハルの写真家としての姿も描かれている。

 

神様のカルテ0

神様のカルテ0

 

 

なぜ人は本を読むのか

4章に分かれているうちのシリーズタイトルにもなっている章「神様のカルテ」について取り上げたいと思います。シリーズタイトルにもなっているということは、夏川さんが一番書きたかったお話なのかもしれない。

今まで「神様のカルテ1」で「医者である前に人間なのだ」という言葉を見た時にその言葉の強さに鳥肌がたったように、今回もすごい言葉がありました。

 

3型胃癌で抗がん剤治療をしなければならない患者の國枝さんと一止の対話場面。

”本にはね、先生。「正しい答え」が書いてあるわけではありません。本が教えてくれるのは、もっと別のことですよ”

持ち前の深みのある声が続く。

”ヒトは、一生のうちで一個の人生しか生きられない。しかし本は、また別の人生があることを我々に教えてくれる。たくさんの小説を読めばたくさんの人生を経験できる。そうするとたくさんの人の気持ちもわかるようになる”

”たくさんの人の気持ち?”

ゆったりとうなずく姿は、教壇に立つ教師そのものである。

”困っている人の話、怒っている人の話、悲しんでいる人の話、喜んでいる人の話、そういう話をいっぱい読む。すると、少しずつだが、そういう

人々の気持ちがわかるようになる”

”わかると良いことがあるのですか?”

”優しい人間になれる”

意想外の返事に、一止は相手を見返した。

 ずっと文系の道を進み、文学に親しんできた私としては「なるほど」と思うのでした。読書や文学に親しんできたことが人生において何の役に立つのか?ということは大学に入ってから、特によく考えてきたことでもあります。

曰く、小説を読んで何が得られるのか、ということ。

ここに、一つの明快な回答がある。

”しかし今の世の中、優しいことが良いことばかりではないように思います”

”それは、優しいということと、弱いということを混同しているからです。優しさは弱さではない。相手が何を考えているのか、考える力を「優しさ」というのです”

静かな言葉が、静かな書斎のはざまに沁みわたっていく。

”優しさと言うのはね、想像力のことですよ”

温かい声に、一止はただ声もなく耳を傾けていた。

多くのことを伝えようとして行きついた、それがひとつの答えであったのか。

いやもう心に響きました……。

なんというのか、今年の阪大卒業式の文学部式辞をみたような衝撃。

skinsui.cocolog-nifty.com

國枝さんの言う「優しさとは、想像力のことだ」という言葉は、この式辞と同じことを言ってるのではないでしょうか。人生でなにか問題に行き詰まった時、なにを頼りにして解決するのか。そこに今まで学んできたフレームとしての人文学がある。

人がなにか問題を解決する時に使うものは、自分が今まで出会った考え方です。もしかしたらそれは宗教かもしれないし、ロジックかもしれない。でも、その一つとして、「読書」で出会った考え方を入れても良いのではないでしょうか。

 

皆が読書で養った想像力を生かして優しい人間になれたら、もっと良い社会になるのでは。

そんなことを思いました。