京都徒然日記

京都の大学生。本と映画と星空と…

【読書感想】『明暗』—プライドとは、エゴとは、愛とは。

世は祇園祭だの三連休だので混んでいるので、京都の秘境左京区にひきこもって本を読んでいる次第です。さて、前回の『神様のカルテ0』を読み終えて、「そういえば、漱石あんまり読んだ覚えないナァ」などと思ったので、『明暗』に手を出してみました。

思えば夏目漱石、『我が輩は猫である』とか、『坊ちゃん』とか、『こころ』とか、そのあたりのいわば誰でも知ってる古典文学シリーズを読んだきりで、あまりほかの作品を読んだ覚えがなかった。なんなら前3つだってうろ覚えである。文学徒を標榜する者としてさすがにそれはどうなのよと長年思いつつ、でもなんか漱石って超然としてるというか欲望を冷静に見つめている感じがして苦手なのよな、などと思っていた。ある程度ねちっこくて、感情の激しさが現れる文章の方が好みだからかもしれない。

とはいえ腰を据えてじっくり文学に触れる時間も早々残っていないことだし、読んでみるか〜と軽い気持ちで『明暗』に手を出し、下巻三分の二までいったところで「そういえばこの小説…未完…だった…」と絶望した感想など。 

明暗 (新潮文庫)

明暗 (新潮文庫)

 

あらすじなど

明治の中・上流階級の津田とその妻お延の家庭生活を中心に、津田やお延のエゴイズム、夫婦の愛、過去との相対などを描く。絶筆であり未完。

津田が軽い手術のために入院するところから話がはじまる。新婚の妻お延とどこか噛み合ない津田は、京都の実家とはお金を巡って対立し、昔からそりが合わない妹・お秀とは金の渡し方をめぐって喧嘩。しかし津田には以前愛した女性がおり、お延はひょんなことからその存在を知ってしまう。一方で津田は湯治と称してその女性の滞在している温泉にいくことになる。

エゴとプライドと

映像で見てしまえばなんてことはない、連ドラだと思うんです。火曜の「逃げ恥」枠でやってそう。うんうん、見たことある。「病室にはだれも見舞いにきてない?じゃあ誰がこの鉢持ってきたのよ」「そ、それは…」みたいなシーンとか。トリックスターである小林が意味ありげに浮気を示唆するところとか。上巻の終わり方とか。お、このへんでCMか?という感じです。

しかし文章で読むと、登場人物の内面描写が丁寧で、かといって必要以上の情報はない。例えば津田。彼に最後のあたりでくだされる吉川夫人の判決は、いままできちんと情報が呈示されていなかっただけに非常に面白かったです。読者が持ってる情報は、お延がもってるのと同レベルでしたね。

「貴方は延子さんをそれ程大事にしていらっしゃらない癖に、表では如何にも大事にしているように、他から思われようと掛っているじゃありませんか」

「お延がそんな事でも云ったんですか」

「いいえ」と夫人はきっぱり否定した。「貴方が云ってるだけよ。貴方の様子なり態度なりがそれだけの事をちゃんとあたしに解るようにして下さるだけよ」

夫人は其所で一寸休んだ。それから後を付けた。

「どうです中ったでしょう。あたしは貴方が何故そんな体裁を作っているんだか、その原因までちゃんと知ってるんですよ」

ここにきて突然黒幕というか、物語を支配する吉川夫人。この前後の会話を見ていても、津田は彼女には逆らえない・逆らわない。吉川夫人がお延のことを嫌いであるということが解っても、夫人が提案するがままに清子に会いにいくことが身の破滅を招くと解っていても、彼は逆らいません。(途中で夫人に対して反抗的になるシーンも一部あるのですが……)。世間体?それとももともと流されがちなのか。お秀との喧嘩を見ているとのらりくらりとしているようにも見えるのでわからないですが。

夫人も夫人で、お延のことが気に入らないという感情と、全てを自分の意のままにしてきた人間の傲慢さと、自分の考えが間違ってるとは露とも思わないおせっかいおばさん的な決めつけが入り交じった女性で非常にリアル。

一番怒りが沸いたのは小林かもしれない。自分の言葉に責任は持たない!って言い切る人間、そりゃ好きにはなれないのは最もなのかな。最後のお金のやりとりのシーンでは津田の我慢強さを誉め称えました。私だったら縁切って家に帰ると思います。

 

そうそう、お延の「あたしはどうしても絶対に愛されてみたいの。比較なんか始めから嫌いなんだから」っていう台詞がお延の無意識な傲慢さ、強欲を示しているようでとても良い台詞だなあと思いました。津田の中で一番でありたいというプライド、転じてエゴイズム。岡本叔父にひいきされて育ってきたが一方で、娘ではなく姪として育った過去ゆえか。あるいは愛なのか。しかしその愛の方向は津田を向いているのではなく、ぐるりと回って、あるいは津田に反射して自身の方向を向いているように見えます。

 

夫婦って何なのか。愛ってなんなのか。最近火曜のドラマ枠で「逃げ恥」、「カルテット」「あなたのことはそれほど」など夫婦関係についてのドラマが続いたからか、ついそんなことを考えました。